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王と王


interlude/ / / / / epilogue/ あとがき





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 音の少ない夜だと思った。
 いや、正確には自分達の足音さえ闇に染み込み、声を出さなければ正に無音。
 夜。いつもの見回り。衛宮士郎とセイバーは暫しの休憩を兼ね、川縁の公園のベンチに腰を下ろした。
 セイバーに何の変化も無い。たが士郎はこの夜に徒ならぬ違和感を覚えていた。
 なんと例えようか? 雪に吸い込まれるように音のしない事もまたそうだが、この空気が、この踏みしめる地面が、そして頭上に広がる無限大の夜空が、何かいつもの世界とは寸分ずれている。
 空は快晴、だが星ひとつ見当たらない。
 そこにあるのは、真ん円としたお月様が一つ。
 顔を顰めながら上を見上げている士郎を訝しがったか、隣に座っていたセイバーがずいずいっと身を寄せて、顔を覗き込んだ。
「どうかしましたか? シロウ。具合が悪そうですが………?」
 突然目の前にセイバーの硝子玉のように綺麗なエメラルドグリーンの瞳が飛び込んできたものだから、士郎は反射的に身を勢いよく反らせてしまい、座っていたベンチごと後ろにぐらりと浮き上がって、後ろ足だけで辛うじてバランスを保っている状況になった。
 一人だけなら体勢を立て直すことができたかもしれない。だがセイバーの体重が予想以上軽かったのか、背凭れの方へ押し付けられたセイバーの衝撃で、ベンチはそのまま転倒してしまい、士郎は後頭部を茂みの中に叩き付けてしまった。
 痛いことには痛いが、幸い茂みで衝撃が和らぎ、柔らかい地面に落ちたので怪我も無い。
 だが士郎は胸の上に圧し掛かる重みを体に感じ、起き上がることが出来なかった。
 よく疲れが取れずに起床すると、体中が重く感じ暫く起きれない時がある。それと同じだ。胸の圧迫感で、呼吸も儘ならない。
 打ち所が悪かったのか………一瞬、未来へ向かって走馬灯が激しく回り、最悪な結末を想像させる。
 頭を打って全身麻痺でベッド生活………晩年は介護をしてくれた桜に見取られ………いや、こんな体の動かない男、桜だって直ぐ見放すかもしれない。
 そんなの嫌だ、とばかりにジタバタと手足を動かし、胸の上の重みに手を伸ばす。

 ぷに

 現実、こんな音は空想の産物だ。でもそれが一番適切な気がする。
 勝手に必死になった士郎が伸ばした右手が自分の胸の上にある大きな石を握り締める。でもその石は全然全く硬くなく、『ぷにぷになモノ』と呼ぶに相応しい弾力を持っていた。
 恐る恐る顎を引き、体の上に乗ったものを直視する。
 何処か見覚えのある群青色の丸い物体。試しに指で押してみる。と、ピクリと丸い物体がくすぐったそうに動き、二本の黒い角が視界の隅で動く。
 その二本の角がなんとなく、ストッキングを穿いたセイバーの足だと分かり、ああ、と士郎は納得する。
「………となるとこれは………………ま、まさか?」
 丸い物体に手を押し付けながら、士郎は恐る恐る手を震わせる。
 もぞもぞと動き、自分の足の方からセイバーの顔がゆっくりと姿を現した。
 何てことはない、セイバーは顔を真っ赤にし、泣き出しそうな目で士郎を睨んでいた。
 怒鳴り散らされたのならまだ楽だ。だが涙目で見られたものだから罪悪感で押しつぶされる。
 今すぐこの状況から脱する為、慌てて起き上がろうと上体を起こし、誤解だと事情を説明しようとする。
「あっ、ちょっ、ご、ごめ、これはその、ワザとじゃなくてっ!!」
「シ、シロウっ、今起き上がっては!」
 焦っていたものだから、セイバーが上から退けるより前に上体を起こしてしまい、セイバーの体が地面とは逆様に起こされる。
 このままでは背中から地面に落ちてしまうと咄嗟士郎はセイバーの足を掴み、その場で押さえる。
 と、そこまでは良かった――――訳はなく、逆立ちさせるように足を持ってしまった為、士郎の眼前でセイバーのスカートが重力に任せばさりと捲くれる形となった。
 ストッキングを穿いているからといって、これはヤバイ、と身を震わせながら目の前のお尻からセイバーの顔へと視線を移す。
 そこには、今にも大火事になりそうなほど顔を真っ赤にしたセイバーの鋭い視線があった。
ぅぅぅ〜〜〜〜〜〜!!」
「あ………あの………これは、………な、何とかバスター………なんちゃっ――――」

 メキっ

 音の少ない夜だと思った。
 でもそれは単なる誤解で、騒々しい音なんて何処にでも転がっている。現に今も、士郎の頭蓋骨が怪しい軋みを上げ、夜空へと空しく響き渡っているのだから………………

 倒れたベンチを直し、服についた土埃を落としながら、士郎はそっぽを向くセイバーに謝罪の言葉を投げかけた。
「ご、ごめんセイバー………本当に悪気があってやったんじゃないんだ………ほら、突然の事で頭がこんがらがっちゃって」
「知りませんっ!」
 セイバーの怒りを和らげようと思いつく限りの言葉を振り絞るが、セイバーの機嫌は良くなる事はなく、士郎を置いて一人で歩き出してしまった。
 士郎は急いでセイバーの後を追い、セイバーを追い越して目の前で両手を合わせた。
「ごめん! 明日の朝食はセイバーの好きなもの何でも作るからっ!」
 言って、物で釣るなんて最悪だ、と自分を罵倒する。
 薄目を開け、セイバーの顔色を窺うが、セイバーは士郎の事など眼中になく、士郎の背後、大橋の方を真剣な眼差しで見つめていた。
 はじめ、目を逸らされているのかと思ったが、あまりにも真剣な表情だった為、別の意味で緊迫とした空気が流れた。
 セイバーは大橋から目を話さない。
「シロウ………私の後ろへ」
 言われるまま、ゆっくりとした足取りでセイバーの横に並ぶ。
「敵か?」
「ええ、あちらもこちらに気付いています。不覚でした………奇襲を仕掛けてこないところを見ると、お互い気付かぬままここまで接近してきてしまっていたようですね」
 目を凝らして橋の上を見つめると、人影が二つ。容姿まではハッキリ見えないが、一人は赤い服を着た男に見える。
 警戒はしているだろうが、攻撃しようと構えているようには見えない。
「どうする? 襲ってこないなら無駄に剣を交える必要は――――――――」
 じと、と目だけ動かし睨まれ、士郎は言葉を噤んだ。
「シロウ、何の為の見回りですか?」
 バッサリ意見を斬られ、士郎は分が悪くいじけた声を漏らす。
「いや、分かってるけどさ、でもほら、話し合えばっ」
「動きました、来ます!」
 話も途中に士郎を背中に隠して構えるセイバー。
 刹那、公園内に疾風が吹き荒れ、正に着地する音も無く、それは舞い降りた。




   

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