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眼鏡をかけた制服姿の女の子を俗に言うお姫様抱っこで運ぶ金髪碧眼の男。
着地し、一瞬士郎と目が合うと、アイツのような不敵で腹立たしい笑みを浮かべセイバーへ向き直す。
女の子は切りそろえられた髪の毛に眼鏡といった風貌が氷室を髣髴させたが、日本人らしい綺麗な黒髪が何処か遠坂を思い出させる。
そうこう思っていると、女の子はじろりと士郎を睨みつけ、男の腕の中から地面に降りた。
士郎は反射的に後退ってしまい、女の子を例える時に別の女の子を例えるのは失礼だと誰かが言っていた気がする、と心の中で反省した。
女の子はシワのついた服の乱れた正し、きちんと士郎と向き合うように金髪の男の隣に並んだ。
金髪の男もまた、構える訳ではないがセイバーと対峙して立つ。
こうしてみると、金髪に碧眼の組み合わせは、セイバーのそれと全く同じ色彩で、家族兄妹と言われても違和感が無いほどイメージカラーが似通っていた。
女の子は腕を組み、士郎を睨みつけたまま話し出す。
「始めてみる顔ね………サーヴァントはともかく、とりあえず私たちだけでも名乗りあわない?」
自己紹介がしたいとは、少し変わった子だと思った。
内心、士郎は女の子に対し背伸びをして威嚇する小動物的な印象を受けたが、これを口に出しても挑発にしかならないので胸中にしまった。
ちらり、とセイバーの横顔を確認するが、男に視線を置いたまま動かないので、士郎は自己紹介を承諾することにした。
「ん、俺は衛宮士郎。その………まあ、宜しく」
今から戦おうかと言う時に宜しくとは、士郎は自分の事ながら呆れて頭を掻いた。
女の子は頷き、声を張り上げて自分の名前を口にした。
「沙条綾香」
それだけか、と突っ込みそうになり、それ以上特に語りようも無い事に気づく。
だが綾香と名乗った女の子は、横に立つ男に小声で話を始めた。周りが静かな所為だろう、その会話は士郎の耳にも届く。
「クラスくらい言ってもいいでしょ?」
「ん? ああ構わんが、どうした急に。先程まで仔兎のように震えていたくせに、今は随分と強気だな?」
綾香は耳を真っ赤にして拳を握り締める。いきなり喧嘩を始めたが、遠目で見ていても仲の良い二人だと分かる。
「なっ、こ、こっちから名乗ればあっちも油断して言っちゃうかもしれないでしょ!」
「はは、そうかそうか………まあ一度戦いになればクラスなど一目瞭然、別に隠すものでもあるまい。なんなら真名だって言ってもいいぞ」
「馬鹿言わないで!」
綾香は男を軽く叩いて押すと、一歩自分だけ前に足を踏み出し、親指を立てて自分のサーヴァントを指した。
「私のサーヴァントのクラスはセイバー。是非、正々堂々と戦いましょ」
自信に満ちた顔で己の使いを紹介し、士郎達の反応を窺う。案の定、士郎達のそれは綾香が想像していた驚愕の表情だった。
「な、セイバーだって!?」
士郎は思わず声をあげ、隣に立つセイバーの顔を見た。士郎はセイバーの『私もセイバーですが?』と言いたげな面持ちに一人でぐるぐると回る頭を押さえる。
それに良くした綾香は親馬鹿が子を自慢するように自分のサーヴァントを語りだす。
「驚いているようね………まあ、記述としては最高と称されたサーヴァントだけど――――――」
だが士郎にそんな事納得できるはずも無い。逆に落ち着いているセイバーを見て、それが相手の陽動作戦である事に考えが至る。
「何の冗談だ? 俺たちを混乱させようってのか?」
気が良くなっていた所に水を差され、綾香の顔面が険しくなり、声に少しどすが利く。
「何のこと?」
士郎はセイバーを指差し、声を張って言ってやる。
「セイバーのサーヴァントはこのセイバーだ!」
『どうだ、出任せは利かないぞ』と言いたげに綾香と睨み合う士郎。
だが綾香も引かずに怒鳴り声を上げる。
「訳の分からない事を! こっちは正直に名乗ったんだから、下手な誤魔化しなんてしないで名乗りなさいよ!」
「誤魔化しなんかじゃない! こっちがセイバーだ!」
口を出せば出すほど口論は激化し、それでいて論点がズレだすもの。
「ほんっと、分からない男ね。あんた馬鹿でしょ!」
「馬鹿はどっちだ。分かる嘘をついてそれを押し通そうとするなんて、お前、友達いないだろ!」
ぎりり、と綾香の奥歯が音を立てる。
「と、友達………友達なんて………」
腕を捲くり、今にも士郎に飛び掛りそうなほど湯気を出している綾香の頭を後ろからぽんと叩き、綾香の言うセイバーが前に出た。
「待てアヤカ、別に嘘をついている訳ではないだろう………なあ、セイバー」
含みのある口調で、セイバーに語りかける。セイバーが返事をする前に綾香が頭の上の手を払いのけ、反論をする。
「何を言ってるの、セイバー!? 同じクラスが二人同時に存在するなんてこと――――」
その言葉を遮って、今まで無言を通していたセイバーが口を開く。このまま綾香の主張を聞いていても埒が明かない。
「確かに、私はセイバーだ。そして貴方も………………セイバーのようですね?」
どこか確信染みた口調ではあったが、セイバー自身も心中ではまだ目の前の男の違和感の正体がつかめずにいた。
男は腕を組み、頷く。
「ああ、とりあえずセイバーってことで間違いはないな。と言っても剣単一っぽくて気に触りはするが」
どちらも嘘をついているとは思えない。綾香は男の腕を掴み、疑わしそうに男を上目遣いで見上げた。
「ホントなのセイバー? 何の根拠があって」
ふっ、と鼻にかけて笑う。
「目を見れば分かる。アレは騎士の目、剣士の目だ」
剣士を強調し、皮肉を籠める。
綾香は腹の底から深くため息を吐き出し、頭を抱えた。
「目を見ればって………はあ、全く、あんたのそれは説得力ないっての」
「どの道、クラスなどどうでも良い事だ。サーヴァントは七体いて、自分以外全て倒せばそれでいい」
男から殺気が溢れ出す。それは一度に周囲を埋め尽くすほどの量ではない。地獄の底から沸々とわきあがるが如く、セイバーへの一対一の申し出として。
セイバーは士郎を下がらせ、身構えながら前に出る。
「確かに。騎士に剣士も弓兵も槍兵も関係ない。そこに必要なのは、己を偽らない正しき精神!」
男は苦笑いを浮かべる。
「はは………堅苦しいな。まるで誰かさんを見ているようだ」
男が頭部を掻く――――そこまでは士郎の目でも確認できた。
チリ、と耳元で何かが磨耗し合う音が聞こえた。
気付いた時には、目の前が爆音と共に衝撃波の渦で視覚情報を完璧に遮断した後だった。
爆風で土煙が舞う。
サーヴァント同士の戦いは何度か目の当たりにしてはいたが、まともに構えていたわけでもなく、まるで奇襲に近いノーモーションでの開始だった為、不意の出来事にその場で尻餅をついてしまった。
煙の向こうで散る火花と共に剣と剣のぶつかり合う甲高い音が耳を刺す。
煙が蛇のようにうねり、セイバーの声が耳元で響く。
「士郎、もう少し下がって下さい」
手を引かれ、士郎の体は宙を舞ってその場から後退する。
完全に煙の範囲外から飛び出し、煙が晴れるのを警戒して待つ。
いつの間にかセイバーは鎧姿に変貌しており、左手には恐らく風王結界によって不可視になった剣が握られている。
セイバーの表情が緊張で固まっている。頬を汗が伝い、生唾を飲み込む音が士郎の耳にも伝わった。
煙の向こうに人影が映り、男の声が姿より先に現れる。
「何の冗談だ………と言いたくなるが、互いに真面目らしいな」
セイバーは剣を両手で持ち、男の襲撃に備える。
「貴方は………何者です?」
その質問の意味が士郎には分からなかった。あの一瞬のやり取りでセイバーは一体どんな疑問を持ったのか。
男はあざ笑うように訊き返してくる。
「それは………名を、真名を名乗れという事か?」
煙が薄まり………完全に晴れる。そこには、セイバー同様、鎧を着込んだ男の姿があった。
それを見て士郎は眉をしかめ、セイバーの強張った顔の意味を知る。
深い青の衣服に、白銀の装甲。同じ年代、地方のものなのか、それは双子と言われてもなんら不思議は無い、男用・女用程度の違いしかない鎧だった。
鎧もそうだが、それ以上に異質だったのは男の左手。何も無いにもかかわらず、まるで手には剣を持っているような素振りだった。
否――――――――
男が手を動かすと、地面が激しく削れ、石の粒が宙を待った。間違いなく、そこに剣があるのだ。セイバー同様、見えない剣が――――
「アーサー王」
どくん………と士郎の心臓が不気味に脈打った。
今の一瞬でセイバーの正体を知られたものだと思った。だが男は勝ち誇るわけでもなくセイバーを一直線に眼中に収めている。
「――――確と聞け、――――確と刻め!」
男の咆哮が士郎の足を地面に縛り付けた。
男は大きく手を振り上げると、見えない剣を地面に突き刺し、柄の上に両手を置く動作を取る。
男を中心に風が巻き起こり、スカート状のマントが荒々しく靡く。
男は目を見開き鋭い眼光で大きく口を開いた。
「我が名は、キング・アーサー!!!」
猛る嵐が、その名を告げた。
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