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今夜の番組チェック


王と王


interlude/ / / / / epilogue/ あとがき





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 何を信じろというのか、目の前の男は、セイバーと多くの類似点を持った男は、自らの名を名乗った。
 しかも、ありえない名を。
 呆然と立ち尽くす士郎とは裏腹に、綾香は突然自分のサーヴァントが黙秘すべき真の名を告白してしまい、焦りに焦って駆け寄った。
「ちょっと、何言ってるのよ!!」
 だがアーサーと名乗ったサーヴァントは手を突き出し、綾香を制止させる。
「隠せる筈もない………そうだろう? 騎士王、、、
 セイバーの満面に迷いが宿る。
「貴方が………アーサー王だと言うのなら、私は一体なんだというのだ?」
 その言葉は、目の前の男がアーサー王であることを認めた証拠。いや、信じ切れていない証拠なのか。セイバーの迷いが窺える。
「愚問を」と男は言い捨てる。
「お前が歩んだ道を記した書物がこの世界に存在していたとしても、それが真実だとは限らない。真実のお前がここに立っているのか、書物の空想がここに立っているのかなど関係あるまい?」
 男は自分の胸に手を置く。
「お前は生きる苦しみを知り、生きる喜びを知っているはずだ? そして今この時、生きている。それでなんの不満がある!」
 剣を抜き、一歩セイバーとの距離を縮める。反対に、セイバーは見えない壁に押されるように足を下げた。
「わ、私は私だ! だが、貴方の存在が私と言うアーサー王の存在を否定している」
 男が踏み込み、セイバーの正面に接近すると無造作に剣を叩き付ける。セイバーはその一撃を真っ向から受け止め、競り合いが始まった。男の顔とセイバーの顔が剣越しに急接近し、男は話を続けた。
「伝説であれ史実であれ、空想であれ………己がどこの世の住人であったとしても、己が己である事には変わりない。根源が同じであるだけで、歩んだ道が違うのだ。それは食事を何にするか、何時起床するか程度の違いですら別の自分へ歩みを変える。それが母親の胎内に宿りし時大きくズレただけのこと………違うか?」
 男の両腕に力が籠められ、体格の差から生み出される重みでセイバーの体は後方に突き飛ばされてしまった。
 それでもバランスを崩さぬよう着地し、追撃に備える。
「平行世界にまで興味は無い。お前が俺だというのなら、そうなのだろう、と納得する以外あるまい」
 セイバーは柄を何度か握り直し、震える唇を噛み締めた。
「貴方は………答えを得たのですか? 自分の道に。それが正しかったと、認めることが出来たのですか?」
 もう一人の自分に出会えたのなら、訊きたくもなるだろう、自分は正しかったのか? と。
 セイバー自身、その答えを期待していたのかもしれない。そこに、自分が求め続けた物語の答えが、あるのだと。
 瞬きの間、男は目を細めてマスターである綾香を横目で見ると、セイバーに直る。
 そして男はセイバーの期待に察しつつ、言い捨てた。
「答えなど無い。生きた道はあくまで結果。命尽きるその時まで、もがいて生きるだけ。あえて得たものがあるとすれば、それは生きる理由だ」
 それは全てを受け止めて生きろという意味なのか。
 それが出来たのならどんなに楽か。ただ生き、生きることそのものに生を見出せたのなら、どんなに苦しまずに済んだことか。
 否定したのだ、目の前の男は。アーサーと名乗った、自分が。
 俯き、セイバーは呪いのように誰に言うわけでもなく呟き始める。
「私は王だ………王である私は、死する瞬間まで民の為にいなければならない。だが、私が王であったばかりに、国を守れなかった………だから必要なのだ、やり直しが」
 それは、二人にしか分からないやり取りなのかもしれない。
 男は首を振り、落胆の色を見せ、剣の切っ先をセイバーに向けた。
「悲しいからやり直す、辛いからやり直す………書き間違えた文字を訂正するように、人生にやり直しなど利きはしない。それでも人は生きていえるのだ。………………なんと愚かな。俺かもしれなかったお前は、その理由すら見えていないと言うのか? 生きるべき機会を得てなお、己を消しに掛かるか」
 男の怒りが顕になった。それは単なる怒りではないだろう。目の前の相手が、自分自身だと自覚してこそ湧き上がった、自己嫌悪と似た怒り。
 それは男がアーサー王である何よりの証拠だったのかもしれない。
「もういいだろう。俺は勝ち残り、願いを得る」
 次はどう動いたのか士郎にも確認できた。たった一歩で十メートルはあったセイバーとの距離を削り上段から振り下ろしてセイバーの剣を崩す。
 当然セイバーにも見えていたはずだ。だが剣を弾かれ、奇しくも無防備な体を晒してしまっていた。
 何か迷いがあったのかもしれない。
 アーサーはそのセイバーの隙を容赦なく蹴り上げ、更にもう一発蹴りを入れて遠くへ飛ばした。
 士郎の横にアーサー王が立つ。だが横目で一瞥しただけで、興味ないとばかりにセイバーを追って駆け出していた。
 セイバーも砂嚢のように蹴られるだけではない。地面に足をつくと同時に、既にアーサーの眼前にまで詰め寄り、頭部目掛けて右薙ぎの斬撃を打ち込んでいた。
 上体を下げ、その一閃を擦れ擦れの所で躱す。
 頭を俯き加減にするその回避法は、アーサーが作り出した隙だった。空中で体勢を整える前にセイバーは膝蹴りを打ち込む。
 だが一直線に向かっていった筈の膝は軌道を変え、アーサーの肩の上を掠って止まった。それだけではない、セイバーの体が時計回りにその場で回転を始めていた。
 アーサーの左手があの苦しい体勢から突き上げるようにセイバーの首を掴み取り、力を使わず合気道の要領でセイバーを地面目掛けて背中から叩きつける。
 受身など取る余裕はない。男は剣を逆手に持ち、手を振り上げて名の名乗った時のように振り下ろし、セイバーを串刺しにしようとする。
 だがセイバーの剣が発光し、視覚できるほど鋭く研ぎ澄まされた風の刃がアーサーの剣諸共弾き、体を襲った。
 風王結界インビジブル・エア解放による真空波。その直撃を受け、アーサーは士郎をも通り越し、始めの位置まで爆音を絡ませ飛んでいった。
 元の位置に綾香の姿はなく、士郎はその姿を探し、公園内を見回した。綾香は元の位置から遠く離れた場所で己のセイバー、アーサーを真剣な眼差しで見つめていた。士郎もそれに習い、そこから後ろに下がる。
 セイバーは起き上がり、剥き出しになった剣を地面に突き刺す。
 煙を振り払い、アーサーが無傷で姿を現すと、慌てて剣を引き抜き構えた。
 アーサーは自分の風王結界インビジブル・エアでセイバーの風を受け止め、真空波による斬撃を凌いだのだろう。
 アーサーは剣を顔の前で構え、左手を目の前で動かした。十字を切るのか九字を切るのか、その行動の意味は直ぐに明らかとなった。
 何かを巻き取るような動作の最後に、セイバー目掛けて手刀を繰り出す。当然届く距離などではない。
 だが地面は噴火し、真っ直ぐセイバーに向かって真空の刃が牙をむいた。
 訳も分からずセイバーは剣で受け止めるが、結界を失った剣はアーサーがして見せたような相殺は不可能だった。
 体の至る所を鋭利な風に切り取られ、血が噴出す。
 アーサーは剣を突き出し、刃をなぞってそれこそ手裏剣を投げるように二発目の真空波を繰り出す。
 セイバーの真空波ほど威力はない。恐らく絶妙な力加減で撃ち放つ事によって、一度限りの技を複数回行うことを実現しているのだろう。
 それはセイバーにはない技術だった。
 圧縮された範囲の狭まった真空波は躱せない刃ではない。横に飛び、打ち寄せてくる散弾を回避する。だが一撃目の負傷が追い討ちをかけ、セイバーの機動力を殺いだ。
 力を籠める度に血管から噴射される血に、激痛が伴う。二歩三歩と動く内に、セイバーの足は自ら絡み合い、転んでしまう。
 直ぐに起き上がろうと手を突くが、血で滑って力が入らない。
 大地を照らす月明かりが遮られ、視界が暗くなった。考えるよりも先にセイバーは動物的な動きでその場から飛び跳ねた。
 セイバーが今まで手を突いていた地面が大きく抉られる。アーサー自身が突進し、その場に立っていたのだ。
 目に冷たい光を宿し、アーサーが宙に舞ったセイバー目掛けて射すように剣を構えた。
 耳元で巨大な蝿でも飛び回っているのかとさえ思う大気の揺らぎ。
 ――――それは大砲だった。
 剣の発光と共に襲い掛かる最大火力の真空波。
 セイバーの体は回避すべき術を持たず、全身で受け、蒸発した血の煙を立ち上らせながら弧を描いて無残にも地面へと落ちていった。




   

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