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prologue ―――――――――――――――
幻想だ。
体全身を包む、赤みがかかった薄く黄色い光。その光の粒一つ一つが、触れようとすれば砕け散り、指の間を埋め尽くす程の暖かい空気となって、再び俺に帰ってくる。
――――雪、みたいだ。
真っ白に光り輝く何も無い空間に在り、溶け合うような色でありながらハッキリとその姿を主張する光は、正しく雪に等しい。
フワフワとどこ行くわけでもなく漂い、触れてしまえば一瞬で姿を消してしまう。
――――まったく、女のようなもんだぜ。雪ってのは。
あんまり構ってやっても、どうせ直ぐに俺から離れてくって事だろ?
そうこう思っていれば、光によって遮られていた、白い世界が開けてくる。
その先の世界は少し薄暗かった。大きなベッドが二つと、衣装などを入れる木箱、ベッドから見える位置に変な四角い箱、後はテーブルに鏡。
周囲にはいくつかの家具が置かれている事は分かった。が、肝心の、そう………俺のマスターが居ねえ。
俺はさっさと光の中から強引に足を突き出し、己の身を新たな空気の中へ投じた。
ふぉん
風を切り裂く、小さな音。
周囲に音が無く、静まり返っていた場所でなければ、恐らく気付かないだろう小さな音。
だが俺は音を拾い取っただけではなく、明らかに向けられた俺への殺気を感知し、自慢の槍を引き抜いた。
相手の打撃を受けると、岩でも砕いた様なけたたましい爆音が衝撃波となって部屋中に反響し、体が震える。
「マスターって奴はどうしたっ!?」
よもや、目の前に居るこいつにやられてるって訳じゃあるまい。
俺は狭い部屋の中で跳躍し、攻撃してきた敵との間合いを五メートルは空けた。
俺が降り立った場所は、部屋の構造上、入り口がある為に通路となっており狭くなっていた。逆に窓を背にして立つ敵は全体的な広さに対して余裕がある。少なくとも俺よりは。
ランプも照らされていない薄暗い部屋ではあったが、俺の目を持ってすれば敵の姿を確認する事は出来る。
意外に、細い奴だった。細い上に小さい。それが第一の印象。
「よく受けたな。まあ、サーヴァントなんだから私の攻撃くらい軽く受け流してもらわなければ困る」
凛とした、涼しげな声。体を含め、野太い所等全く無い。間違いなく、こいつは――――――――
「お、女ぁ〜〜!?」
女である事は分かった。髪を肩口で短くそろえ、一見ガキのような幼さを残した顔付きが特徴、いや、もしかしたら本当に声変わりもしていないガキかも知れない。
だが女は、俺の言葉に不満を抱いたのか、眉を顰め口元をムッとさせて口を開いた。
「女で悪いか?」
いや、女だろうと敵に不服は無いが。
「不意打ちをして置いてなんだが、構えを解け。ホテルを壊しでもしたら後々面倒だ」
そんな悠長な事を言って、女は近くにあった椅子に右手を置いて戦闘体勢を解く。
「な、何言ってやがる」
攻撃を仕掛けてきた正体も分からない奴を目の前にしてリラックスなんて出来る訳が無い。
「まだ解らぬか?」
女は軽く溜息をついた後、左手を宙に上げると手の甲にある紋章を俺に見せ付けた。
三つのラインが複雑に絡み合うその模様は紛れも無く………
「まさか………俺の?」
女は軽く頷き、手を掛けていた椅子から手を離し、確りと背筋を伸ばして俺と真っ直ぐ向き合った。
「まあ、未知なる相手への警戒心が無くては困るがな。もう少し洞察力は欲しい所だ」
きゅっと首に巻きつけていた黒い紐を正し、
「私の名はバゼット・フラガ・マクレミッツ。あなたのマスターって事になる。それで? 念の為、あなたのクラス、真名、及び宝具を述べてもらおうか?」
迷い無き言動に精神。
窓の先に浮かぶ真ん丸とした月を背にして立つ彼女は、輪郭から溢れ出す青白い光の衣を纏い、まるで月のお姫さんみたいでとても神秘的だった。俺はただそれだけで気に入った。
――――まったく、気の強そうな譲ちゃんだ。
「俺はランサーのサーヴァント、クーフーリン!」
これが二人の出会い。そして別れへの物語。
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